5日間 モッテ小屋からベニー谷キャンプ場

モッテ小屋の雑魚寝部屋で目を覚ました世界一周婦人と俺。まだ、雨は降り続いている。今から動くのは賢い選択ではないと、もう一眠り。

9時、ようやく雨が止んだので、朝食を食べて出発。しかし、空はまだ厚い雲で覆われている。いつまた雷雨になってもおかしくない。今日はどこまで行けるだろうか。
モッテ小屋からの急登は、フランスとイタリアの国境であるセイネ峠へと続いている。雲の切れ間に見え隠れする巨大な氷河を横目に見ながら、つづら折れを少しずつ登っていく。

登るに従い、気温が下がってきた。これは標高や氷河だけのせいじゃないだろう。来るかな、と思ったら、やっぱり雨が降り出した。レインジャケットを着込む婦人と俺。しかし冷える。8月だというのに。でも、真夏にもかかわらず雪に降られたパタゴニアでの峠越えよりはマシか。あの時は手袋をしていても指がかじかんで凍傷にでもなりそうだったんだから。
そして、ついにセイネ峠に到着。標高は2500メートル程。眺望、全くなし。霧が立ち込めているから、のんびり休憩しながら景観を楽しむどころではない。

前述のとおり、ここセイネ峠がフランスとイタリアの国境。でも、イミグレもパスポートコントロールも何にもない。そういった施設が昔はあった、なんて気配もない。つまりユーロが成立する以前から、ここにはそんなものがなかったっぽい。国境審査なんて、ないところではなかったんだなと思った。
『ここからはボンジュールじゃなくてボンジョルノだね!』なんて言いつつ、互いにテンションを上げる婦人と俺。ホワイトアウトした峠にはさっさと別れを告げて、イタリア側に下降していく。

15分ほどすると、なんとそこには山小屋が。ちょうど雨足が強くなってきたし、軒先を借りて、峠ではできなかった休憩をさせてもらう。

きっとここも宿泊か食事ができる山小屋なんだろうと思って軒先で休んでいたんだけど、ドアには『ウェルカム』との張り紙。売店系の山小屋かな?それならチョコレートとか売ってるかも、と思って中に入ってみると、なんとそこはモンブランの植物などを展示する資料館だった。

『ようこそいらっしゃい!そこの椅子に腰掛けて休んで行きなよ。ほら、暖炉の近くであったまって!』と、職員のお兄さん。マジっすか!なんて有難いオファー。遠慮なく資料館に入ってしばし雨宿りさせてもらうことに。

『どこから来たの?』

『日本からです!』

『そうなんだ、遠いね!日本は大丈夫なの?ほら、地震とか原発とか。』

『うーん、政府は大丈夫って言ってるけど、実際のところこんな事故が起こったのは初めてだから、事故の影響がどのくらい悪いものなのかよく分かんないんです。』

『へー、俺も日本に行ってみたいよ。』

『…あ!ところで、ちょっと相談にのってもらってもいいですか?自分たち、ツールドモンブランのガイドブックは持ってるけど、フランス語だから読めなくて。』

『あはは、いいよ。どんな?』

『バス移動できる区間とか、テントを張れるポイントとか教えてもらえないかな、と思って。ほら、今日もこんな天気だし、明日もそんなに期待できそうにないし…。』

『もちろん!そうだね…』

と、身を乗り出し、地図を引っ張りだして、お兄さんは親身にアドバイスをしてくれた。掻い摘んで言えば…
バス…フランスではシャモニー渓谷の端から端まで(レトゥール村からレズーシュまで、シャモニーはその区間の真ん中)、イタリアではクールマイユール渓谷の端から端まで、スイスではラフリ村からシャンペ村まで、その3区間でバス利用が可能。
テント…イタリアでは標高2500メートルを越えなければ基本的にはテントを張ってはならず、有料キャンプ場を利用する必要がある。ただしツールドモンブランのルート上ではある程度の理解もあって、他の人の迷惑にならない場所、日が暮れてから昇るまでなら、大目に見てもらえる。つまり常識的な節度をわきまえた『ビバーク』でさえあれば、咎めるものはいない。
…とのことだった。
『今日も明日も、きっとこんな感じだからね。せっかく歩いても景色が見えないんだったら、クールマイユール渓谷はバスでもいいんじゃない?』

『そうですね。本当に助かりました、グラッツェミーレ(ありがとうございます)!』

『ドウイタシマシテ!』

そうお礼を言って、資料館を出る。
しばらく休んでいるうちに、雨はいくらか小降りになっていた。霧もマシになっている。

エリザベッタ小屋、コンバル湿原と進むうち、気がつけば雨は止んでいた。これが晴天だったら、どんなに美しかっただろう?という景色の連続。実にもったいない。最高級素材で作ったけれど冷め切ってしまったピザが、目の前にあるという感じだろうか。

ただ、長期の山旅での悪天候は、はなから織り込み済み。むしろ、『悪天候の区間があるからこそ、晴天がより美しく感じられるんだ。』くらいに思っている。事実今回のトレッキングでも、もし初日二日目の酷暑が延々続いていれば、景色を楽しむことを忘れてしまっていたかもしれない。
山道がアスファルトに変わった時点で、ふたりベンチに座って相談。なんか、さっきから雨降ってないけど、一時的なことじゃなくて、このまま持ち直しそうな雰囲気?バスをフル活用すれば今日中にイタリアとスイスの国境手前まで進むことができる。でもそれじゃイタリア区間のほとんどを歩かないことになっちゃう。できることならイタリアからのモンブランの眺望も楽しみたい。

仮にバスをフル活用するにしても、焦って今日じゃなくても良いんじゃない?ベニー谷(クールマイユールの街の東側)キャンプサイトで一晩様子を見て、全部歩くか、ちょっと歩くか、それとも全部バスか、明日の朝の天気と相談して決めよう!ということになる。
ということで、アスファルト道を歩くこと1時間、本コースから外れてベニー谷のキャンプ場へ到着。

『すみませーん、一晩、二人、テント泊で!』

『ああ、いらっしゃい。雨の中お疲れ様。』

婦人と俺が宿泊手続きを済ますと、係員のおっさんがキャンプ場の施設案内をしてくれた。

『テントはこの辺に張ってね。シャワーはあの奥の棟。で、あの建物は共同スペース。調理したり、濡らしたくない荷物を置いてても良いよ。あ、でも今はスカウトがキャンプしてるから、散らかってるかもしれないし、出入りが激しくてちょっと騒がしいかも。ごめんね!』

『いえいえ、ありがとうございます!』

…ん?スカウト?って、ボーイスカウトのスカウト?俺は日本でボーイスカウトの隊長だったし、婦人もガールスカウトでリーダーやってた。しかもつい先日まで、イタリアのスカウトが俺の実家でホームステイしてたはず。

なんだかこれは、ちょっと素敵な巡り合わせの予感。我々が共同スペースで夕食を済ませてくつろいでいると、ぞろぞろと揃いのユニフォームを着た若い男女が入ってきた。

『こんにちは…君たちもしかして、スカウト?』

『…そうですけど?』

忍者みたいな風貌の不審なアジア人に話しかけられ、いくらか戸惑うイタリアの青年たち。

『やっぱり!俺、日本でスカウトだったの!』

と言って、バックパックに詰め込んでいたネッカチーフ(スカーフ)を取り出す。

『おお!』と一同。

そこからは話が早い。実は、今年は世界ジャンボリー(ボーイスカウトにとってのワールドカップみたいなものか?)が日本で開催されていた(だから

イタリアのスカウトが俺の実家にホームステイしてた)んだけど、参加枠は限られてるし費用も安くはない。彼ら、それぞれの理由で世界ジャンボリーには不参加だったメンバー集まって、夏キャンプしていたという訳。

『これはちょっとした世界ジャンボリーだね!』

互いに偶然を喜びあって、連絡先を交換したり、記念撮影したり、ネッカチーフ交換したり。
気がつけば、また雨が降り出していた。

なんだか色んな理由で、ここのキャンプサイトに泊まって良かったね、と喜ぶ婦人と俺なのであった。

小雨の中、遅めの出発。

モッテ小屋から小雨の中、遅めの出発。

モッテ小屋から峠までつづれ織りの登りが続きます。上下雨具を着込み登っていると暑くなってきたので脱ぐことに。すると同じく登っていたドイツ人親子達に「寒くないの!?」と驚かれました。寒さに強い西洋人にこんなこと言われたのは初めてです。

モッテ小屋から峠までつづれ織りの登りが続きます。上下雨具を着込み登っていると暑くなってきたので脱ぐことに。すると同じく登っていたドイツ人親子達に「寒くないの!?」と驚かれました。寒さに強い西洋人にこんなこと言われたのは初めてです。

峠に近づくにつれて強まる風、そして大粒の雨。最終的には雨具を着込み、冬用の手袋をはめて歩くことに。やっぱり寒さには弱いです。

峠に近づくにつれて強まる風、そして大粒の雨。最終的には雨具を着込み、冬用の手袋をはめて歩くことに。やっぱり寒さには弱いです。

フランスとイタリアの国境を超えて、現れたのは小さな小屋。

フランスとイタリアの国境を超えて、現れたのは小さな小屋。立体的なツールドモンブラン全工程の模型や、モンブラン特有の花の紹介がしてあります。インフォメーションはとっても親身に私達の今後の予定の相談に乗ってくれました。

フランス、イタリアの国境付近には青い芝が延々と広がります。晴れていればどんなにか綺麗だったんだろう。

フランス、イタリアの国境付近には青い芝が延々と広がります。晴れていればどんなにか綺麗だったんだろう。

エリザベッタ小屋は、ツールドモンブラン上にある山小屋の中でも最も景観の良い場所にあるのではないでしょうか。背後には氷河、前には美しい湿地帯が広がります。

エリザベッタ小屋は、ツールドモンブラン上にある山小屋の中でも最も景観の良い場所にあるのではないでしょうか。背後には氷河、前には美しい湿地帯が広がります。

湿地帯には川が蛇行し、赤や青、黄緑の草が生えています。人の手が入っていない、原始そのままの姿を見ることができます。

湿地帯には川が蛇行し、赤や青、黄緑の草が生えています。人の手が入っていない、原始そのままの姿を見ることができます。

湿地帯にある湖。エリザベッタ小屋には車で行くこともできるようです。何もすることはありませんが、のんびり本を読んだりするにはぴったり。

湿地帯にある湖。エリザベッタ小屋には車道もあるので車で行くこともできるようです。何もすることはありませんが、のんびり本を読んだりするにはぴったり。

麓の町へ到着し、「手作りチーズ、ヨーグルト」の看板に吸い寄せられて、ヨーグルトを購入することに。

麓の町へ到着し、「手作りチーズ、ヨーグルト」の看板に吸い寄せられて、ヨーグルトを購入することに。

羊のミルクを使ったヨーグルト、少し癖があります。モロッコで買ったハチミツを合わせて頂きました。

羊のミルクを使ったヨーグルト、少し癖があります。モロッコで買ったハチミツを合わせて頂きました。

キャンプ場で出会ったイタリアのスカウト!たゃっかりチーフを交換。イタリアのチーフは隊長のお母さんの手作りなんだとか。

キャンプ場で出会ったイタリアのスカウト!たゃっかりチーフを交換。イタリアのチーフは隊長のお母さんの手作りなんだとか。

イタリアには『友情』を意味するチーフの結び方があるとかで、教えて貰うことに。

イタリアには『友情』を意味するチーフの結び方があるとかで、教えて貰うことに。

偶然の出会いに感謝!

雨がもたらした出会いに感謝、のりのいいイタリアのスカウト達、楽しい時間をありがとう!

 

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2 thoughts on “5日間 モッテ小屋からベニー谷キャンプ場

  1. ジャンボリーに来てたイタリア隊も友情結びをしてたよ。そして、18団からもシェラカップや記念スカーフもプレゼントしてあげたから、二つスカーフしてました。お姉からお土産にあげたユニクロ富士山t-シャツもすっごく喜んでたわ。イタリアのスカウト、ナイスガイでした!なんかのご縁だね。

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